書評 「社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!」
今日は先日読んだ本のご紹介をしてみます。
ご存知の方も多いかもしれません。これはおちゃらけ社会派ブロガーちきりんさんの3冊目の単行本にあたります。
簡単に言いますと、旅好きのちきりんさんが過去色々回られた海外の旅先で考えたこと、気づいたことを述べられている本です。
私は初めて出くわした時から、ちきりんさんのブログの大ファンで、毎回の更新を楽しみに読んでいますし、単行本も3冊ともしっかり予約購入までしています。
このブログを始めたのも、実は「インプットだけでなくアウトプットもどんどんしよう」というちきりんさんの意見を聞いて、「じゃあ私もちょっと自分の考えを外に出してみよっかな」と思ったのがきっかけです。
そういうわけなので、私にとっては憧れの人だったりいたします。
そんな今回の新刊ですが、一言で言って、最高でした。
日々のブログも、今までの二冊も、もちろん良いのですが、今回のは本当にすごいです。
もともと何気ないことに対しての鋭い視点と考察が売りのちきりんさんです。普段のブログの一記事一記事でさえ、毎回読む度に新しい視点に考えこまされることが多いのに、それがブログとは別の書き下ろしで一冊全編にわたって続くんです。
ブログなら日々の更新量はそんなに大きくないので、ほどほどの衝撃で脳にも休みがもらえますが、それが一冊のボリュームになってしまうと大変です。
あまりに面白いので次が気になって気になって、ついつい読み進めているうちに、どんどんどんどん脳がかき回されてしまうのです。
しかもテーマは海外旅行。
普段のブログでは社会とか経済とかの抽象的な話も多いのですが、海外旅行というほとんどの人が経験しているであろうテーマでこれをやってくるんです。
海外旅行の具体的な事例に基づいて話されているので「あー、それよく分かんない」なんていう逃げ道も無く、脳がまっすぐにその衝撃を受け止めることになります。
内容は濃いのはもちろんですが、バラエティーに富んでいて、章ごとに色んな角度から「ちきりんビーム」が飛んできます。
例えるなら自分の脳がサンドバックになっているのが分かっているのに
それがやめられないとまらない感じです。
読み終えた時、私はきっとパンチドランカーのように真っ白になっていたことでしょう。
そして、その時、私自身驚いていたのですが、私は「感動」していたんです。
それも心の底から響くような「感動」です。
もしかしたら涙も出ていたかもしれません。
小説なんかのもともと感情を動かす読み物なら分かります。
でもこの本は小説ではなく一般書の類に入ります。
それも自己啓発本でも宗教本でもなく、基本的には様々なことを考察したり分析したりする理性的な本です。
なのに、私は「感動」していたんです。
私は本が好きなので多くの本を読んできましたが、これは本当に初めての経験です。
人は理性でも感動できるんだって私は初めて知りました。
この本が読めてほんとに幸せでした。
せっかくのこの感動、ちきりんさんご自身にも伝えたいなあなどと思っていたら、先日ちきりんさんのブログでちょうど「書評募集中」との告知がありました。
これは何かの縁と思い、色々な感謝の気持ちを込めて、それに参加してみることにしたのです。
◆
さて、上の説明だけではちょっと漠然としていますので、何がここまで面白いのか、少し紹介してみたいと思います。
例えば出発前後に慌てて両替して使っている海外紙幣がありますね?
紙幣ですから色んな肖像画が描かれていると思います。
でも、
「そこに描かれているのが誰なのか」
気にしたことはありますか?
正直、私は全然注目したことがありませんでした。
何気なく、
「あ、なんか外国の人やなー」
程度にしか思っていませんでした。
いえ、思ってさえいなかったかもしれません。
でも、ちきりんさんは
「あれ、日本と載っている人のタイプが違うんじゃないの?」
「この人たちは何でその国の紙幣に載ってるの?」
と、載っている人が違うことに気づいて、その理由を考え始めるのです。
肖像画は国によって政治家だったり文化人だったり、時には人が載っていなかったりします。
例えば、私たちの日本円ですと、福沢諭吉、樋口一葉、野口英世と文化人シリーズですね。
でも米ドルでは、歴代大統領なんかの、政治家シリーズなんです。
なぜでしょう?
私を含めみんなが見過ごしてしまいそうな、この違いにこんな「なぜ」を突きつけて、考えるのがちきりんさんです。
その具体的な考察結果はここでは書きませんが、この
①違いを見つけて
②その背景を考える
プロセスがちきりんさんは非常に鋭いのです。
自分で気づけていなかった「違い」を指摘されて、その背景まで理路整然と説明される。
これは傑作ミステリーの謎解きの場面にも似ていて、ヒントは一杯出ていたのに自分は気づかなかった、この「やられた」感が非常に面白いのだと思います。
なお、今回の紙幣のような国ごとの「横の違い」だけでなく、時期を変えて複数回訪れた時のある国の変化など「縦の違い」についてもエピソードが多数載せられています。
そんな「横の比較」と「縦の比較」は、ちきりんさんの十八番ですが、今回の本でもその縦横無尽な視点がしっかり私たちを楽しませてくれます。
◆
ここから、ちょっと私自身の考察です。
この本を読んで、不思議に思ったことがあります。
どうして私はそんな海外旅行に潜む「違い」に気付けなかったんでしょうか。
そもそも、海外旅行ってそんな日本との「違い」を経験しに行っているはずでは?
それなのになぜ気付けないのでしょうか。
それは多分、海外旅行では逆に「違うのが当たり前」になりすぎてしまうからかなと思います。
どうしても海外旅行というのは身構えてしまいます。
外国は日本と違って気候や地理、文化、風習などなどいろんなことが違います。
だから、ついつい出発前に現地の情報をガイドブックなりインターネットなりで、いっぱい集めて勉強して勉強して、果たしてようやく「よし行くぞ~!」と出発するわけです。
ガイドブックでも特に治安の項なんかで「ここは日本ではない。くれぐれも注意するように!」などと警告が載っていたりします。
そんな風に「日本とは違うところ、違うところ」と意識しすぎながら歩くと、多少の「違い」があってもかえって気づけなくなってしまうんじゃないでしょうか。
例えばチップです。
今回の本でも少し触れられていましたが、事前にガイドブックで「チップという風習がある」と日本との「違い」を知らされて「大体相場はこんな感じ」とまで懇切丁寧に解説されていると、「とりあえず、そんな感じにしておけばいいのね」と、ひとまず「納得」してしまいます。
そして実際にそれに従ってチップを渡せば、トラブルなく過ごせてしまうのです。
多分このとりあえずの「納得」が曲者で、一度「そういうもの」と納得してしまうと、「なぜそういう仕組みがあるのか」という疑問につながりにくいのでしょう。
それで特別トラブルもないと、ほとんど「当たり前」の日常の1ページに埋没してしまって、印象に残りません。
このように、旅行情報が豊富になりすぎ、異文化との衝突が無くなった結果、かえってお互いの文化の姿が見えなくなっているのではないでしょうか。
相手の国に行って、単に相手の国の風習をなぞっているだけでは、実はそこには「日本の文化」は無く「相手の国の文化」しか登場していません。異文化の交流になるはずがないのです。
しかも、相手の風習をなぞるのもマニュアルに書かれた「型」をやっているだけで、その「心」や「背景」は全く習得していません。
これでは相手の文化との「違い」に気づけるわけもありません。
もちろんトラブルになれば良いというわけでは無いです。
でも「型」を覚えてトラブルは避けても、せめて心の中では異文化と自分の考えを衝突させておかないと、異文化のことを何も実感できなくなってしまうと思うのです。
それってちょっともったいないですよね?
そう、心の中までも異文化との衝突を避ける必要は無いんです。
異文化が心の中に入ってきても妥協する必要はありません。
「郷に入っては郷に従え」
ではなくて、
「うちの郷ではこうなんだけど?」
ぐらいに思っておく方が、異文化コミュニケーションになるんじゃないでしょうか。
ちきりんさんには海外に行っても、そのように異文化に飲み込まれることなく、むしろ自分の中に異文化を飲み込んでしまう、そんなしっかりした心の眼の存在を感じます。
こう考えると、今までの海外旅行で一体私は何を見ていたんだろうって、しみじみと思い知らされるのです。
下手をしたら、「型」にこだわって、ほとんどガイドブックしか見ていないのと同じようなものだったかもしれません。
◆
そんなこんなで、この本
「社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!」
あなたの海外旅行観も変わると思います。
オススメです。
P.S.
ちなみにこの本の密かな見所は普段素顔不明で通しているちきりんさんの、とうとう出た、全身写真です!(59p)
なかなか見れないお宝写真ですよ。
必見です♪